アバラソロ名義の2ndアルバムをリリースしました。今作のテーマは声です、まあ聴けばわかりますね。
ゲストとしてPSP Socialのドラムの勢子くん、光分解のこやまくん、友達の玲奈君に参加してもらいました。面白い内容になってると思います。
1stから続くテーマに”雑さ”というものがあって、今作はよりその部分を意識しながら作りました。
このアルバムを聴いてスカムみたいな表現を想像する人は多いのかもしれないけどそこについては正直あんまり意識していません。こう言ってる時点で多少は念頭に置いてるなとは思うけど、あくまで”雑”とか”適当”って言い回しにすることが大事。
音楽ってのは一つの現象であることは間違いなくて、即興にしろある程度決めるにしろ丁寧になればなるほど現れるものに対する予想がつくようになる側面があります。例えば何回このリフを弾いたらこの音が入ってきてそれをもう何回繰り返した後にコードが変わって……とかドラムがこのフレーズを叩きだして何回したらこのフレーズをみんなで弾いて……みたいなものがあると音楽の進む道筋みたいなものがぼんやり浮かび上がってきて、その音楽の正体みたいなものが見えてきます。これは基本的には良い事とされていて、出来上がるものを予想できるからこそそれに対するアプローチも最適なものを選択できるようになって、音楽に対する感度の高い人ならそれをさらに高めていって音楽をより”凄いもの”にすることができます。
即興演奏にも同じことが言えて技術が高くなればなるほど、演奏の持っていきかたが自由になって音楽はどんどん”凄いもの”になります。
このアルバムのリファレンスにデメトリオ・ストラトスとかメレディス・モンクを挙げたけどこの人たちも声にものすごく高い技術を持ったどちらかというと”凄いもの”に分類される音楽で、同じような発声は誰にでもできるものじゃないし生まれつきの声質も魅力的だったりするし、そもそも音楽理論とかにめちゃ詳しかったりします。
自分はこういった凄い音楽を聴くのが好きですが、同時にこれらのような凄いものは聴き分けるためにも高い聴取能力が求められることが多くていきなり聴いて良さをわかるのはまあ無理だろうというか、ある程度色々な音楽を聴いてきた人向けのものな気がするし、聴いていて疲れる時もあるような気がします。
今回自分が作りたかったのは”凄くないもの”で、細部まで耳を配らずとも何が起きているのかは理解できてかつわかりやすい形を持たないもの(または細部まで理解する必要を感じないもの)。これが何なのかはわからないけどいくつかの音が規則的また不規則に鳴っていて音楽らしく、同時に真顔で聴くのは馬鹿らしく感じるようなもの。ロックバンドの音楽ってそういうものな気がするし、そのフィールドから出ずにジョン・ケージみたいなものをやりたかったって感じですかね。ゴミとかスカムって言い回しでも良いような気がするけど個人的には雑とか適当って言い回しがしっくりきます。まあ気にせず楽に聴いてください。
bandcampで購入するとボーナストラックでyumboのカバーとPSP Socialのセルフカバーが入ってます。これもまあ悪くない出来だと思うからぜひ買って聴いてみて欲しいです、音は悪いけど。
あとこのアルバムで一番重要なのは金光虎次郎くんが作ってくれたジャケットですね。これだけカッコ良いジャケットを作ってくれたから堂々と変なものをリリースできたような気もします。発注については音源データを送ってジャケット内に何でも良いから言葉を入れてくれって頼んだらこのジャケットを送ってきました。ちなみに”Dans le linge sale d’autrui.”って書いてあるみたいで、フランス語で”洗濯物に唾を吐いたって”みたいな意味だそうです。真意は聞いてないからわからないけどなんとなくこちらの意図を汲んでくれているような、綺麗に洗ったものを汚しちゃうような気分は自分の音楽の中に通底してあるような気がしています。彼の作る作品は本当に良いから依頼する人が増えて欲しいですね。
最後にこういう声を軸にした音楽はリファレンスに挙げた以外だと、ディアマンダ・ギャラスとかタミア・ヴァルモントとかも良いです。興味持った人は聴いてみてください。