最近見た映画、読んだ本、音楽⑨

      column

      週に1本も映画を見ないってのはここ数年あんまり無くて見ない人と比べたら確実に見る方だとは思うけど別にマニアとは言えないみたいな微妙な距離感の趣味が俺にとっての映画で、その責任の無さ(そもそも単なる趣味に責任なんてあるはずないけど)の心地よさがなんとなく好きな気がした。とは言え選ぶ映画の傾向には偏りがあって、その偏りと俺の音楽は密に関係してるのも事実なわけで、その偏りをなるべく頭の外側に出してみたくなったからこれからは映画以外の何かも日記みたいに書いていくことにしました。とりあえず映画から。

      映画の感想

      「草叢 / 不倫団地 かなしいイロやねん」 監督:堀禎一
      最高。冒頭のセックスシーンの歯切れの良さに差し込まれる一瞬の虚無感みたいな気分からもうグイグイ引き込まれた。自分に与えられた役割に耐えられなくなっていくような、周りの求める自分とか現実と自分がどんどんズレていくみたいな、あんまり上手く言えないけどそういう寂しさがあった気がする。職場のおばちゃん悲しいよ。底辺労働者(敢えてこの言い方する、俺もそうだし多分)が自分をゴミと表現するみたいな諦めの語彙はこの世界にあふれていて、それらは気休めにもなると思うけど息苦しくもなっていくだろうなというか、その振る舞いに怒りを表現できるのは貴重だなみたいなことを思った。良い映画は感想が難しい、おススメです。

      「死んでもいい」 監督:石井隆
      天使のはらわたとかラブホテルもそうだけど石井隆はレイプから始まる同名の男女の物語を作りまくってるらしい、なんじゃそりゃ。まあ丁寧だし見どころも多いんだけど主人公の男がキチガイ過ぎてホラー映画みたいだった。まあ一目ぼれした人妻を襲うような男は変に決まってるか……。旦那がいい奴過ぎて段々笑えてくるぐらいなんだけど、主人公のイカレ具合も負けてなくて雨の中家に来てドアポストから手が生えてくるところとかマジ怖かった。意味不明だし印象に残った映画だったけど面白かったかは微妙。ラブホテルの方が良かった。

      「集団痴漢 人妻覗き / 海鳴り 或いは波の数だけ抱きしめていられるか、アホンダラ!」 監督:佐野和宏
      佐野和宏の映画は最初の方しか面白くない気がする。青姦を覗いてるところは笑えるけど、あと全部どうでもよかった!

      「宮本武蔵 巌流島の決斗」 監督:内田吐夢
      シリーズの中で一番どうでもよく感じて、途中から知ってる逸話を見る映画になってた。初めてガンダム見たときってこんな気分だったような。蝿を箸で捕まえたあとはちゃんと新しい箸に替えてもらってるんだなとか思った。前々から思ってたけどお通さんのキャラは正直今見るとキツイ。佐々木小次郎との決斗は想像以上にあっけなくて物足りない気もしたけどかなり印象に残ってるから良いシーンだったのかも。まあ自分の業とその虚しさみたいな話で、他の内田映画に共通する点は多かったような。

      「彼女と彼」 監督:羽仁進
      良かった。バタヤ部落って言葉を初めて知った。エロい団地妻みたいな話に転びそうになるけれど演出はかなり冷たいし内容はかなりポリティカルで微妙に面食らった、俺はエロい団地妻みたいなのを勝手に期待してたから。それでも左幸子の演技は凄いし冒頭の火事のシーンも印象的だし、イコナが犬連れて家に来るところとかマジ良かったと思う。この映画見て俺は子供がちょっと嫌いだったことを気持ちよく思い出すことができた。

      「ダブルEカップ 完熟」 監督:浜野佐知
      面白くなかった!清々しいくらいに面白くなかったけど、なんか良かった。堅そうな活け花教室が実は裏・活け花の継承者で門下生の女の身体に花を活けるのだ!というだけの話でちょっと笑えるけどちょっとしか笑えないし、普通にほとんどセックスシーンだから楽しく見れるかというと何とも言えない。ただ俺は浜野佐知について軽く調べてから見てて、この監督はピンク四天王に対して批判的だったみたいでそもそもセックスを映画の添え物にしてしまうこと自体に批判的だったのかなみたいなことを思った。もちろん四天王の映画のセックスが必ずしも添え物なわけでは無いけれど、セックスそのものが主役なわけではなくて物語の中にセックスがあったり何かのメタファーや意味を持って登場する道具みたいなものとしてのセックスであることは間違いと思う。まあつまりセックスを道具として扱って変なこだわりを発揮しようとしている男性の、自らをセックスの外側に置いたかのような傲慢さに対して女性の立場からの批判みたいなものなんじゃないかと思った。この映画も裏活け花とか言って神妙な顔をしてる男たちに馬鹿じゃないのみたいなことを言ってアッサリ終わるし、自分に痴漢させる女とかレズセックスとか、性の主体を女が握ることについて拘って撮られてるように思った。これは正直面白い映画では無かったけど浜野佐知の一般映画とか見てみたい。これの影響で尾崎翠の全集買ってちょっと読んだけど面白かったです。

      「晩菊」 監督:成瀬巳喜男
      個人的に成瀬巳喜男が重要になる理由は林芙美子原作の映画を何本も作ってるからなんだけど、そのわりにあんまりそれらを見てないことに気づいたからなんとなく見た。良かった。芸者時代の仲間に金を貸してその利子を取り立てて回る杉村春子の憎らしさと、なんと言っても昔の男たちの情けなさが良かった。原作は昔読んだはずなんだけど全く覚えてない。見て思ったのが成瀬の映画はほとんどの間画面に人が映ってるというか、人以外のものをほとんど撮らないなあみたいな。小津とか溝口ってもっと物語の外側にある画作りみたいなもので何かを語ろうとするように感じるけど成瀬はそれをあんまりしないというか、歌行燈とかはそうでも無かった気がするけれどあんまり印象に残ってるものが無いように思った。晩菊なんかほぼずっと誰かが映って何か喋ってるというか、脚本を映画にしましたみたいな感じもした。強いて言うならチンドン屋は風景に近いような?それでも人の営みではあるし、逆に変な監督な気もします。最近戦前の成瀬映画がたくさん配信に来たらしいから色々見たい、鶴八鶴次郎を高画質で見れたら一番良いんだけど……。

      「めし」 監督:成瀬巳喜男
      成瀬映画二連続。これも林芙美子原作。倦怠期の夫婦の家に親戚の若い娘が入り込んできてなんとなく空気が悪くなっていくみたいな話で、擦れた感じの原節子が良かった。近所に住んでるやつはなんとなく嫌な奴が多いし(向かいの家の女は妻が留守のうちになんとなく押しかけるようになっていて、それが笑えて良い!)、里子は言っちゃなんだけどガキだから節操が無いし、旦那も何にも言わないし、こんな生活続いたらそりゃ出てくだろと思った。最後二人で同じビールを飲んで片方は美味くて片方は不味いみたいなこと言うシーンが良かった。

      「エンジェル・アット・マイ・テーブル」 監督:ジェーン・カンピオン
      マジで久々に洋画を見た。ジェーン・カンピオンはピアノレッスンを見ただけだったんだけどそれがずっと印象に残ってて好きな監督な気がしたから見ることにした。凄い良かった。三幕構成でそれぞれ違った趣があって、最初の方は『大人は判ってくれない』みたいな、上手くいかない子供の感じがなんかすごく泣けた。セックス覗き見するシーン(それを親に言うシーンも)最高。俺はセックス覗き見が好きすぎるところもあるけれど。第二幕は結構辛かった。精神病院に入院して酷い治療を受け続けて、最後ロボトミー手術とか言い出した当たりは本当に見てて辛かった。もうちょいマシだけどベルイマンとかの感じを少し思い出した。
      この監督の色彩感覚が好きですね。結構鮮やかなんだけど粒は荒いみたいな感じ。ピアノレッスンもそうだけど海が映るときが本当に良い。また時間を置いて見たいと思った。

      「美しき仕事」 監督:クレール・ドニ
      ずっと見たかったのをようやく見れて嬉しいんだけど、掴み切れないまま終わってしまった……。でもショットは全部凄く良かった。訓練のシーンは全部印象深いけど、青空の中紐を伝って移動してく訓練のあとの洗濯ものが良く印象に残ってる。あとはアイロンがけとか料理とか。男たちの筋肉の美しさとか愛憎関係のピュアさとか、そういうものを掴みきれないまま見終わっちゃった感じがするからもう一回見たい。寝起きだったし。

      読んだ本

      大して本は読まないし、評論とかは難しいからほとんど小説なんだけどまあ俺はお話が好きということで適当に今月読んだものを。

      「キャラメル工場から」、「牡丹のある家」、「くれない」 著者:佐多稲子
      キャラメル工場からと牡丹のある家は貧乏な家の生活模様の話で、これは普通に平林たい子とかの感じに近いと思った。貧乏を上から見下ろしながら淡々と進む感じだけど、重要なのは母とか娘にフォーカスが当てられるところだなというか、(貧乏で)ダメな親父とか嫌な夫や姑だとかそういった家族の構造に踏みつけられる女を描こうとするのはこの時代の女性作家らしさだなみたいなことを思った。これが小林多喜二だと突然社会主義者が現れてありがたい話をちょっとしたりするんだけど、そういうピュアさが無いところが逆に今読んでも楽しめるようになってるのかなみたいな、まあ普通のことを読んでて思った。
      くれないは倦怠期の夫婦の話で互いに作家同士で政治的な活動もしてるから小説の中で互いに一度ずつ逮捕されてるのが面白くて、子供もいるけどある意味一人になって仕事に向き合っているうちにそれが良くなってきて獄中から帰った方はいまいち家の中に出来上がった空気に馴染めなくなる。それを順番に経験した結果夫婦生活が上手くいかなくなっていって、その中で社会的な性差とかいろんな情念とかが渦巻いてく感じが良かった。新しい女が出来たから別れようなんて当時でも変だったのでは?とか思うけど正直昔のことはよくわからない。この時代のプロレタリア系の女性作家はほぼ必ず社会と女を対比させながら作品を描くと思うけど、その中のバランスがそれぞれ違ってる感じが面白い気がする。具体的に言うとセックスとジェンダーのバランスの捉え方に個性が出るような気がする。佐多稲子はかなりジェンダーの割合が高いような。まあ後期の作品ももう少し読みたい。

      「第七官彷徨」、「歩行」 著者:尾崎翠
      浜野佐知が映画化してたから読んでみたんだけど想像とだいぶ違った。一応幻想小説の括りに入るみたいだけど他の幻想小説を知らないから本当にこんなジャンルなのか?みたいな疑問がある。とにかく全員の行動がなんかズレてるというかまあシュールさみたいなものがあって、ずっと蘚の恋愛(なんじゃそりゃ)の話とか分裂心理の話が差し込まれながら音楽学校に進学希望の男(ろくでなし)と主人公がなんかいい感じなように感じるけれどそれも恋愛なのかよくわからない。そもそも主人公の言う第七官にひびくような詩がなんのことかわからない。でもなんか読み心地は良くて楽しく読めた、よくわかんなかったけど。変な男三人と女一人の共同生活ってなんか少女漫画みたいな感じして良かったかも。

      音楽

      聴いたアルバムで良かったのとか見たライブの感想ぐらい書いてみたい気もするけれど、今月の後半は制作に熱が入ってきたからあんまり音楽を聴かなかった気がする。まあ今月ハマってた曲とかにしとこうと思う。

      CAN – Yoo Doo Right

      まあ今更この曲の良さを語るほどでも無いのはわかるけど今月はこの曲をよく聴いた。バイト中暇なときよく歌ってた。ベースと歌だけでほぼ物語が出来上がってて、あとはそれをずっと繰り返すみたいな構造なんだけど、虚無感と熱が同居してる感じでカッコ良い。冷めてるんだけど燃えてるみたいな、その逆みたいな。ホルガーシューカイのベースがハイフレットに行く瞬間がマジでカッコ良い。

      Nav Katze – ライラック・ムーンライト

      そもそも今月はNav Katzeにドはまりした月で、うわのそらとこのアルバムを聴きまくってた。あとリミックス盤も結構聴いた。この曲が特に好きなのは流れるみたいに綺麗な歌と単純にニューオーダーっぽい感じ、踊れる感じで歌が良い曲って本当に好きだ。リミックス盤に入ってるNever Notのリミックスも好き。

      So-Do – Scrambled Eggs

      この曲を聴いたのは先月だけど今月もハマってよく聴いてた。LPが届いたのもギリ今月だと思う。ダブになったJAGATARAみたいな感じで、暴れるギターと癖のあるボーカルがカッコ良いバンドなんだけどこの曲はなんか可愛くて良い。俺は毎日スクランブルエッグを作るぜみたいなこと言ってんのがなんかすごい、その後すぐにいつもの感じになるんだけど。長野のバンドでまだやってるらしいからいつかバンドで大きなツアーとか回れるようになったら対バンしたい……。

      天国注射 – 望郷

      天国注射の歌詞に頻出する労働者モチーフについてよく考える。音楽(ないしは芸術一般)と政治を切り離すことが不可能なのは間違いないとして、日本の音楽のほとんどは政治から切り離されたいという政治性が内包されていて、そうでなければ純粋で傷つきやすい左翼性みたいな平たく言うとゴッチみたいな東京に住むオシャレで余裕のあるやつの遊びみたいなもののどっちかだと思うんだけど、天国注射はあからさまにプロレタリアの音楽を目指してるのが面白い。ちなみにゴッチみたいなやつの何がいけないかについては簡単に言うと音楽性と思想が一致していないところで、もっと言うと生活の実感と思想がまったく一致していないのがわかる感じ。その乖離の結果がタイマーズのコスプレしちゃうみたいなピントのズレた振る舞いに繋がっていて、嫌な言い方すると政治の世界=コスプレ(生活の外側)みたいな発想がどっかにあるんだと思う。
      話を戻して日本での労働者モチーフなんて言うとファンモンとか紳助とかの雑でヤバい保守性にすぐ絡めとられる危うさが合って、これは日本人はすぐに生活をどうにかして肯定しようと(もしくは全く否定しようと)する悪い癖が影響してると思うんだけど、天国注射の歌詞世界は荒っぽい音楽性に対してその辺に凄く慎重。というか生活と政治が一直線に繋がってる感じが良いというか、本来当たり前であるはずなのになかなか見ないものだと思う。
      少し前にXのTLで見た三十代フルタイム労働者の音楽とか生活やっていきましょうみたいな最低のポストが回ってきたけどああいうノリの何がいけないかって、彼らはSNSではリベラルなことを言って選挙の時期になったら選挙に行こうとか何かの政策の批判とかはするけれど、それと地続きになってる生活を最終的には肯定しようとしていて、お祭りかなんかだとしか思ってないんだろうなみたいなことを思う。ハレの日の政治、ハレの日の音楽、みたいな、全部地続きだと思うし俺はそういうの全部くだらないと思う。
      まあ天国注射にかこつけた俺の嫌いなもの語りはこのへんにしといて、このアルバムの真正面からプロレタリアの音楽をやろうとする姿勢は本当に素晴らしいと思う。東京に集まりがちなシーンへのアンチテーゼとしても申し分ないのでは、最近は必ずしもそうとは言えないけれど。
      シンプルなリフに載せられて歌われる労働者の悲哀はある種のプロパガンダで、世の音楽家はその言葉に怯えすぎなのではみたいなことを思った。小林多喜二の小説だって今読んだら思いっきりプロパガンダだと思うけど、だからあの本は悪い本なんだって言うのは視野が狭すぎるし、変な規範意識とか潔癖さを大事にしたがるのはその感性自体が保守化そのものと言える気もする。
      俺の好きな曲は”疾走して失踪”と”百姓一揆”と”望郷”の三曲。望郷は綺麗な曲だと思う、俺もコンビニの前でおにぎり急いで食ってるから共感もある。

      2025年5月11日 「正しい 傷つき/傷つけ 方」西荻窪FLAT

      西荻窪FLATでcomputer fightを見た。一応ガセネタも出てたんだけどメンバーほぼ同じだしあんまり違いがわからなかった。曲は結構違うけど。
      思ったこととしてドラムの音があれだけ大きいとベースはいくらでも音を上げられるなというか、音がデカすぎて始まった瞬間ロックバンドのライブに来たなあみたいなことを思った。でもデカすぎて疲れたから30分ぐらいしたところでいったん外に出て残りは後ろの方で見てた。ボーカルのカンフーくんは90分もライブやっててまだデカい声が出るのかと思って結構くらった。良いライブだったと思う。

      2025年5月12日 「Unwound Japan Tour 2025 – Tokyo 2: Plays The Future Of What」新代田FEVER


      念願のunwoundを見ることができた。ハードコアの文脈の中にいるのに演奏に直線的な感じは全くなくて、大小さまざまなうねりを絶えず作り続けていて、素直に気持ちよくなれない感じが凄く良かった。定番のFor Your Entertainmentなんかシンプルに静と動みたいな曲だと思うけど、その静の解像度が凄まじいというかあんまり静って感じもしなかった。本当に揺らぎとか波の幅で音楽を捉えてそうだなみたいなことを思った。彼らが明らかに自分たちの属する音楽を更新しようとしていたのは間違いなくて、その結果クラウトロックだとか実験的な音を取り入れて音に対する解釈が広がっていったのかそれとも元々彼らはこういう音の在り方に敏感だったのかは解釈がわかれそうだけど、後期の再現でまた来てくれたら嬉しい。Treacheryを生で聴きたい。
      対バンのマスドレが一曲目でNEU!みたいな曲をやってたのも批評性があって良かったと思う。unwoundって気難しさの塊みたいなバンドだから、そういった言語的な世界ときっちり向き合った演奏をしたのはリスペクト故なのかなとか。

      今月は結構映画を見たから大変だった。いくつかなげやりなのもあるかも。平林たい子をちょっと読み返したりもしたんだけどそれはおそらく来月に自薦集を読むからその時にまとめて書こうと思う。
      活動の近況としては即興系コンピの締め切りが近いのと、Big Dick,Thank You.がレコンキスタに置かれるようになったこと。まあどっちもよろしくお願いします。

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