最近見た映画、読んだ本、音楽⑭

      column

      わりと長く続いた映画の熱が冷めてきて今月は2本しか見なかった。それも月の頭の方に見てからずっと見てないから来月は1本も見ないで終わるとかもあり得る気がする。別にいいと思うけど。その代わり本を読む時間が少し増えた。本は時間を自分で決められるのが良いですね。15分だけとか、気が乗ったら1時間とか、最近は頑張るのが面倒くさいんでこういうのが楽でいいなと思います。そんな感じで映画の感想から。今回はライブの感想とかも書きます。

      見た映画

      「阿賀に生きる」 監督:佐藤真
      蓮實重彦の本が出る記念か何かの企画で見た。良かった。彼らの生活に水俣病はすでに染み込んでいて、裁判や手の震えやそれによる人生の方向転換(諦めとか挫折と書くか悩んだけどそれは映画に出てくる人々に失礼な気がした)は、生活の一部として当然のようにそこにあって、それを含めた全てをただフラットに映しているだけといった印象。そこには当然強い批判があるんだけれど、それに決して引っ張られていないというか、むしろ撮影者の存在が消えていくような、撮られている人もそのことを忘れているかのような気配の消し方が面白かった。それは対象への誠実さでもあると思うけど、変に倫理的な方向に傾くより遥かに問題提起として良い気もした。
      近代化の過程であちこちに工場が出来て、それらの流した排水が土地の人を蝕むわけだけど、それは誰の理屈ないしは欲望によって起こることなのか。つまり何故その工場はその土地に建てられたのかということを考えた時、海辺でなければいけないだとか、ある程度広々してなくちゃいけないだとか、まあ色々あるだろうけどそれが建つのは東京では無いよねみたいな。資本の都合で軽く見られる土地や命というものがあって、東京の人間はそれを無意識に受け入れていて、それによるうまみだけを享受できてしまう構造はあるなと思った。別に東京に限らないし都市部の人間って言い方で良いけど。原発とか軍基地とか、まんま同じようなことが言えるよねとも思うし、多少自覚的でありたいとは思った。苦界浄土のラストで排水流した会社の役員に水銀飲んでくれって頼むような場面があって、それが出来ないのもわかるけど、飲めよぐらい思うよね普通に。超良かったから機会あったら是非見て欲しい。AmazonにDVDあるし見ようと思ったらいつでも見れます。

      「フルスタリョフ、車を!」 監督:アレクセイ・ゲルマン
      長いし、暗いし、わけわかんないし、最悪だった。話もなんなのか全然わからないし、途中で出るか悩んだけどもったいなくて出れなかった。主人公が男の兵隊たちに犯されてるシーンは確かに凄いかもと思ったけど肛門を犯されて叫ぶ男はそりゃ画として凄いしこちらも多少は高揚しますね、ぐらいのものではある。まあどうでも良いですね。こういうわけわかんない映画って興味無いといつも思います。北千住ブルーシネマは初めて行ったけど超空いてるし安いし、スピーカーも無骨で良かった。

      読んだ本
      今月は色々読んだけど後半の方は無駄に何冊も同時に読んじゃって途中で止まってるのが何冊もあるといった感じに……。まあ良い気がするけど、半端に読んで止まったものってあとから読むの大変な気がするから11月でなんとかしたい。

      「1973年のピンボール」 著者:村上春樹
      飽きてきた。正確に言うとこれの次に「羊をめぐる冒険」の上巻まで読んでもういいんじゃないかみたいな気がしてきた。友達が言うにはこれより後に作風が固まって非現実が入り込んでくるような作風になるらしいけど(実際羊をめぐる冒険もそんな感じだった)、正直この作者特有の文体がだんだんキツくなってきた。この人は恐らく空虚そのものがテーマの人だから、一つ一つの言葉が軽くて、大事なことは何も言わないでただ滑っていくみたいな文章がずっと続く。一息も凄く短い。とにかくさっさと進むから読みやすいし、それに通う虚無感が本質的な問題なんだと思うけど、パンチラインが無いなとも思う。つまり凄い面白いことは全然言わなくて、変なことはずっと言ってるけど別に面白くはないよねというか。ペニスがどうとか人は鯨じゃないとか、別に全然面白くないというか大したことないでしょ。それをずっと言ってるから変なのであって、その一言だけ切り抜いたらネットによくある真顔で変なこと言う系のボケ方にしか見えない。今の時代だからそう思うのはあると思うけど。もちろん一言で切り捨てられない凄みはあるし、これが切実になる人の気持ちがわからないわけでも無いけど俺が文学に求めてるのはこれじゃないかもなと思ってきた。続きはまた気になってきたら読むのかも。

      「女の子の背骨」 著者:市川沙央
      チェーンの販売店で何かしらの新作を買う体験が7~8年振りぐらいな気がした。正直CD欲しいとか全然思わなくなってきたし。まあその手の体験の良さみたいな話は無限に擦られてるし大した話じゃないのでここまで。
      面白かった。「ハンチバック」よりこっちの方が俺は好きだ。特に「オフィーリア23号」が良かった。
      この作家の書くミソジニーの存在感は大きくて、ユーモラスではあるんだけどその暴力の構造はしっかり描かれる。見栄とか冷笑とか、それらのしょうもない男性性は作中でも冷たく眼差されていて一見それらは取るに足らないものにも見えるんだけれど、その取るに足らないものに押しつぶされる主体はいったい何なんだろうか?と投げかけてくる。構造として自分を押しつぶす対象を冷たく眼差してみても、その構造が変わらない限り存在は惨めで、むしろ攻撃的な言葉は全部跳ね返って自分に突き刺さる。まさに自分を”せむしの怪物”と表すしかない絶望がそこにあるなと思います。
      俺はこういう作家凄い好きです。俺は平林たい子が大好きなんだけど、この部分は凄く近いように思う。自分で男は女を打つために生まれてくるのだとか言っちゃう感じとか。まあどっちも暇な人はぜひ読んでみてください。

      「コンビニ人間」 著者:村田 沙耶香
      市川沙央の本が面白かったから最近の作家をもっと読もうということで、有名で知ってるやつから読んだ。2016年は全然最近じゃなさそうだけど。共感性の無さを説明する感じとか、中二病の暗黒微笑的なノリの拡大版かと思ったけど、全然違った。普通に頭おかしい人の話だった。解説で超越がどうのみたいな話がされていて、確かにコンビニ店員に最適化された人格は同じ人間と思えない。それは多分向こうも同じなんだろうなというか。わりと良かった。同じ作者の他の本も読みたい。

      「わたしを話さないで」 著者:カズオ・イシグロ
      完全にノリだけで買って読んだ。有名だし、タイトルもなんか良いし面白いだろうみたいな。素直に良かったと言いにくいなと思うけど、好きだと思った。思い出したのはテッドチャンの「あなたの人生の物語」とか映画の「ピアノレッスン」とか。翻訳の問題もあるのかもだけど、こういう静かで抑制された女性の言葉に俺は惹かれるのかも。カズオイシグロもテッドチャンも男性だし、これだけ言うとオッサンの書いた二次元美少女に本気萌えしてるオタクって感じしてマジで恥ずかし悔しいけど本当のことだから仕方ない……。どちらかと言うと共感ベースで読んでる気がするから萌えてるとも違うと思うけどね。
      あまりにも直球で情動的なメロドラマではあるんだけど、このぐらい静かなら俺は好きかも。カセットテープ買いに行くところとかマジで良いと思ったし、こういうの読んでウットリするの好きですね俺。映画もあるらしいけどそれは面白くなさそうだった。

      恐らく最後まで読んだのはこの四冊だと思う。半端に読んでるのがあと3冊ぐらい。買ってからしばらく寝かせてた平林たい子の自選作品集を読んでるけど、短編集とかはもう面倒だし書かないことにする。俺が心から好きだと言える小説家って今のところ平林たい子と川端康成ぐらいな気がする。後者にハマったのは今年に入ってからだけど。あとタイトル忘れたけど横光利一の短編も2個ぐらい読んで、平林たい子の影響元はここだろうなってのと、それでも俺は平林たい子の方が全然好きだなって思った。人を虫みたいに見下ろしてる人には自分を外す人と含める人の2種類がいて、俺は後者は好きだけど前者は嫌いだなあみたいな。まあそんなことを思いました。あと小説以外の本もちょこちょこ読んでるけど、そういうのの感想は面白くならないと思ったから割愛。

      音楽

      今月は印象的なライブも何本かあったし、自分もまあまあ色々やってたような。CFにヒョーカにエスパーキック、みたいな。チッツと水いらずのライブが凄く良かったから感想書くと思います。

      K.Yoshimatsu – Life In The Water

      多分今月一番聴いた。なんて良い曲なんだ。くぐもったカセット音質が泣けますね。鳴ってる音の全てが素朴すぎるんだけど、歌がめちゃくちゃ良いから全部良いし、これ以上はありえないと思う。再発されたかなんかで知ったしどうせならフィジカル欲しいかも。なぜかみんな日本語タイトルの曲だらけのアルバムもあって、それがあまりにも古い洋楽の邦題すぎて変だったからXにポストしたら本人に見られて普通に恥ずかしかった。俺の言葉も汚かったし。

      L’Altra – Nothing Can Tear It Apart

      昔なんかのブログで知ったスロウコアのバンドで、懐かしくなって今月はよく聴いた。良い曲だと思う。良い素材を丁寧に扱った曲って感じがする。何っぽいとかはあんまりピンと来ない。スロウコアにしては明るすぎる気もするし、普通にインディーロックの範疇な気がする。最近の若いスロウコア好き系のバンドが好きな人とかは気に入るんじゃないでしょうか。

      Family Basik – The Last Fine Day Of My Life

      友達に教えてもらった。こういう音の並びがシンプルな曲のドラムはこのぐらいペタっとしてるのが一番好きだ。暗すぎるけどマジで変な至り方してるし、最後急にテンポチェンジするのとか意味わからないけど凄い。美に向かうというより素朴さとか淡々とした生活の匂いのする音楽だけど、そういうものの中に死の匂いが漂う瞬間の悲しさが好きだと思った。

      2025年10月12日 チッツ企画「パワー脱臭vol.7」西荻窪FLAT
      チッツのライブが凄く良かった。ずっと知ってたバンドってわけでは無くて、最近友達に教えてもらって良いなと思ってたぐらいなんだけど、ライブは圧倒的だった。引き込まれた。曲は全体的にちょっと笑えるというか微妙に可愛い感じなんだけど、とにかく歌が良い。本人たちがどう思うかは置いといて、青春パンクとかの良い部分だけ切り抜いたみたいな?全然違う気がするけどライブ見ててそんなことを思った。単にめっちゃジャンプするだけかも。音楽的に言えばリズムは裏打ちのダンスっぽい瞬間も多いしスミスみたいな曲とかあるんだけど、演奏が全力すぎてなんか全然違うものになっちゃってるのが良かった。ボーカルのひっしーさんの叫びとかめちゃくちゃだし、しかも過剰だし、ロックバンドってこういうことでもあるよなと思った。このバンド20年以上続けてるのは凄い事だと思う。PSP Socialでも対バンできたら嬉しい。

      2025年10月26日『水を捨てよ、内へ還ろう』リリース記念公演 渋谷WWW
      hanasuの歌詞を書いたという理由で見たいと思ってた幽体コミュニケーションズはカッコ良いけど最終的に俺には関係ない音楽だと思った。その次の磯田健一郎もかなり真っ直ぐニューエイジで正直わかんなくて5分ぐらいで見るのをやめた。そんな感じでかなり不安だったんだけど、水いらずのライブは凄く良かった。今年見たライブの中でも印象に残ったほうな気がする。音源に感じてたエクスキューズが多すぎるのでは?みたいな引っ掛かりもある程度は払拭された。
      演奏は淡々としていて、大人数の編成なのに大きいエネルギーみたいなものに向かわないのが良かった。そんなに詰まってない感じと言うか、ライブ時間も含めてアッサリしてたなと思う。ロックバンドの向かいがちな激情的なものに向かわず、プレーンな気持ちのまま始まって終わる感じはニューエイジ音楽の空気感とも結びついているような。
      好きじゃなかったbakeruも音圧がミチミチじゃないライブの演奏で聴くと良い曲だと思ったし、同じく好きじゃなかったuturuも凄く良かった。一番好きなhanasuの客演はあんまり上手くいってなくて残念だったけど、これは人の問題じゃなくて曲の問題だと思った。隙間の多い曲だから不安定なものをちょっと混ぜたらライブ感出て面白くなりそうだけど、実はその隙間も含めて出来上がってるものだったというか。客演には良い思い出と悪い思い出がそれぞれあるから自分も人に頼む時には気を付けたいかも。誘われて断れる人少ないと思うし。
      あとXで水いらずの感想でたまの話をしてる批評系の人がいたんだけど、マジでどう結びつくのかがわからなくて凄かった。水いらずってとにかくあらゆる批評的言語と結びつこうとしてる印象があって、それがあるラインを超えると音垢文化の中で文脈が無限に再生産されて勝手に膨らんでいく、みたいな現象が起きたりするのかなって思った。実際なんでたまなんですか?俺は全然たまに詳しくないからわかんないだけでもありそうだから誰かわかったら教えてください。

      今月は以上です。田村はいないけどたまにPSP Socialのスタジオ入ってます。EP作ろうかな、みたいな感じで。まあ完成したら嬉しいですね。最近はずっと曲作ってます。もっと色々書こうと思ってたこととかあった気がするけど、忘れますねそういうのは。エスパーキックのライブ映像とかは見なくて良いです別に。やってみただけって感じではあるんで。まあ大したことないものでも手を動かしてた方が何か安心するし多少の発見もあるし、やってる気分は悪くないんですけどね。そんな感じで今年もそろそろ終わるかもなんで、多摩川で焚火とかしたいです。

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