年の瀬に友達と会うと「よいお年を」と言われるわけで、そのほとんどの相手ともう一回ぐらい会っても良いのになと思った。まあ気持ちの良い挨拶だとも思ったから今年は現場で必要以上に言ってみたりもした。普段はそんなに好きじゃない内勤の連中相手にも言ってやった。お互い悪い気分じゃなかったと思う。新宿駅とか大きい駅に行くと誰かがこの挨拶をしてるのを見れるわけで、それも悪い気分じゃなかった。多くの人が同じムードを共有している喜びなんだと思う。他にもいくつかのことを思ったけれど、恥ずかしいから割愛。恥ずかしさを含んだ言葉は言える機会に言っておいた方が良い。
12月は映画はあんまり見ないで本ばっかり読んでた。もしかしたら年間ベストの話とかもするかも。
見た映画
「PASSION」 監督:濱口竜介
ハッピーアワーも偶然と想像も凄く良かったから良いだろうと思って見に行ったら全然わからなかった。というかちょっと不快なまであった。
まず思ったのがカメラの切り替わりの激しさというか無理にリズムを作ろうとしてるのが見てて疲れるなみたいなことで、これは初期作だからそういう洗練のされてなさは仕方がないだろうとは思ったけど、その洗練のされてなさが全て不快さに繋がってるなというのが総評。
すれ違う男女関係に含意が感じられないから、突然現れる暴力の話とか告白合戦が全部滑ってるように思った。最後風呂場でレイプするシーンも意味不明。普通に見てて不快だった。
最後の工業地帯のシーンの告白も、ハッピーアワーでは完全に相対化された男の子のロマンスそのものにしか思えなかった。ああいうロマンチックで純粋な言葉を受け入れてもらった後に振られたい(≒心の交換がしたい)みたいなマゾいロマンスってあると思うけど、そのままお出しされるとちょっと恥ずかしいし見てらんない。これは俺がそのマゾいロマンスにそれなりの共感があるからなんだろうけど。
あとはカサヴェテス好きなんだろうなとか思うシーンがそれなりにあったけど、だからどうとかは一つも思わなかった。
「ラルジャン」 監督:ロベール・ブレッソン
初ブレッソン。凄い良かったけど全然わかんなかった。まず画面が終始徹底して冷たい、というか情感がほぼ全くない。とにかく無表情で淡々としてるのが良かった。映画的に快楽になりそうなもの、例えば具体的な暴力とかはハッキリ映さないし、美に向かってもいないからタルコフスキーとかの感じとも違って、厳格って言葉が似あうなとか思った。
物語については正直自分がロシア文学的なものを全く理解していないことをそのまま感じた。ドストエフスキーとかトルストイのこの感じってつまりどういうことなのかあんまりわからないというか、何に影響を受けた何についての話なのかが全然わからない。もちろん話の筋自体はわかるから映画は楽しく見れるし思うところもそれなりにあるけど、何かがありそう……で終わる感じ。
裁判のシーンはどれも印象的だったし単なる法律の問題での罪ともっと高次の罪は別であったりするのかなとか、最後の殺人なんかは殺人それそのものが目的らしいからそれまでに出てきた犯罪とは違うように見えるなとか、まあ色々感じたけど結局わからず。思い出したら解説サイトとか読みます。
最近読んだ柄谷行人の本に、ニーチェの考えでは罪の意識は債務感で憎悪はそれの打ち消しなんだよって書かれててドストエフスキーの話が例えに出される一幕があったけど、なんか大枠で関係あったりするんですかね。全然わからないです。俺は哲学とか全然知らないし、あらゆるコンテンツをなんとなくで解釈してるなあ。来年の目標にこの辺をもうちょっと理解することを入れても良いかも。
読んだ本
今回も小説に限ります。今月は映画より本だった。文字は時間が関わらないから気楽な気がする。
「伊豆の踊子・十六歳の日記」 著者:川端康成
講談社文庫のを読んだ。最初期の川端康成は本当に良い。観念に向かわず淡々と個人的であるから、よりイノセントな読み心地に感じる。収録された五編はどれもただ孤児根性に傷ついた青年の虚無感とそれが融ける瞬間の美しさが最低限の感傷の中で描かれていて、死について、ただそれそのままに描かれる分言葉も清涼な響きを持っているように思う。「伊豆の踊子」が名作なのは、飾りが無いからだろう。一番良かったのは「油」。短い話だから探して読んでみて欲しい。
「虹いくたび」 著者:川端康成
少年愛の描写の官能は言わずもがな、若さに翳りが差す頃の業を描くのが後期川端の魔界の文学だよなとか単純なことを思った。肉体的なフェティシズムと嫌悪の混じり方も好きだ。性の描き方は愛情と嫌悪のバランスが肝要で、川端のバランス感は自分の好みに凄く近いように思う。これは片腕とかにも思った。これが極まると眠れる美女とかになるんだと思う。そういえば谷崎潤一郎にも老人の性欲の話があるらしいから近いうちに読みたい。
「名人」 著者:川端康成
途中で調べて知ったけど本当にあった話らしい。ふーん。勝負の世界に美が入り込んで、どんどん死に向かっていく様はなんとなくスポーツ漫画とかにもありそうな話だなとか思った。あしたのジョーとかスラムダンクとか思い出しながら読んだ。囲碁のルール覚えたい。これも来年の目標に良いかも。
「授乳」 著者:村田沙耶香
コンビニ人間を読んでからなんとなく引っ掛かり続けてた村田沙耶香を読んだ。超面白かった。三篇とも強烈にセックスの話なのに、むしろ死に引き寄せられる離人感によって駆動している感じが面白かった。どれもモチーフがかなりオタク的というか、エロ漫画みたいな構図だなとか二次元嫁の話みたいでポルノ的な構図があるのに、現実への嫌悪で満ちているから、肯定的なものが一つも入り込まないし、変な形の露悪がずっと続いている。体液の描写なんかどれも良かった。自傷行為で出た血をナプキンで抑えるシーンも最高。
例えばコイビトの、その存在を全て自分で規定することができる代わりに現実への手触りを一つも保証しない愛情の対象は、まんま二次元嫁の話に置き換えられる気がした。その歪みがやはり死に引き寄せられるのは、その死が即ち認識の世界に閉じ切った世界であることは、この作家のもつ暗い観念で、その際の話をずっとしてるんじゃないかと思った。
凄いと思ったのはコイビトだけど好きなのは御伽の部屋。というか、御伽の部屋の正男お姉ちゃんの話が好きだ。ケンとのセックスの時に彼女の口紅を思い出すのは、それが現実と認識の絶対的な矛盾と、強烈な疎外の象徴だからだろうか。思うことと生きることがどうしても矛盾してしまうことはあって、それがどうにもならない時に人は自殺に憧れるんじゃないかとか思った。
地球星人も買ったから読むのが楽しみ。コンビニ人間だけ読んでなんとなく流しちゃった人は授乳も読んでみてください。
音楽
あんまり新しい音楽を聴かなかった気がする。年間ベストはありません。別にそんなに聴いてないけど該当作品無し。去年のCindy Leeの新譜が毎年ベストアルバムで在り続ける気がします。まあよく聴いた曲を適当に挙げます。
Liquorice – Baby Would It Matter
Songs:OhioとかWinoが参加してるコンピに入っててだいぶ前に聴いて良いと思ったのを久々に聴いたら相当良い曲だと思った。20年遅くデビューしてたら爆売れしてたんじゃないか。カントリー風なインディーロックって感じでかなりBig Thiefっぽいと思う。一枚だけ出てるアルバムも4ADから出てるし当時はわりと人気があるバンドだったのかも。アルバムの方もかなり良い、この曲が好きです。
Patrick Cowley – Grisha’s Tune
80年代の暗いゲイ・ディスコ。暗くて淡々としてる感じがクラウトロックぽくてカッコ良い。これは多分Dark Entriesから再発されたやつ。アルバム通して盛り上がり切らないで、静かだったり暗かったりずっとしてるけど、ディスコが背景にあるから変化を織り交ぜながらずっとノれる感じになっててカッコ良い。この人は32歳でエイズで亡くなってるらしい。この時代のゲイカルチャーはエイズでの早逝が多くて悲しいですね。クラウスノミなんかも大好きだけど長生きはしなかったらしいし。知り合いで何人か絶対このアルバム好きだろうなって人がいる。
まあ今月はこんな感じでした。RAYの悪口めちゃくちゃ書こうと思ってたけどしょうもなさすぎてやめた。歌も踊りも下手すぎるけど、アイドルの本番はチェキ会だろうし、変な形の水商売でしかないですね。エクスキューズに音楽使うのに憤るほど俺は純粋ではないけれど、これを本気で褒めてる人は見る目が無さ過ぎるでしょう。人格を使った商売は頭がおかしくなると思うから倫理的に問題があるとは思う。
年間ベスト
文字数が少なくなっちゃったから一応年間ベストをまとめます。順位とかは無しで。書いてて思ったけど年間ベストってくだらないですね普通に。
映画
「青空 / 果てしない欲情 もえさせて!」
「ハッピーアワー」
「宮本武蔵 一乗寺の決斗」
「火星のカノン」
本
「資本論」
「マルクス、その可能性の中心」
「雪国」
「授乳」
音楽
「Diamond Jubilee」
「ライラック・ムーンライト」
「Oddults」
「hanasu」
その他
蕎麦
おでん
焚き火
各作品の感想は割愛。この辺を抑えておけばだいたい今年の俺のことはわかる気がします。ただいくつか印象的なものをピックアップしてみたけど嘘くさいですね、普通に。正直ここに名前挙げてない名詞を通して何かを考えることもよくあるし、1月の俺と今の俺は考え方も感じ方も結構変わってる気がする。まあエンタメとしてはわかりやすくて楽しいのはわかるけど、批評性を年間ベストから期待するのは無理があるような。そんな感じで今年も終わりですね。来年はPSP Socialで何かやれればと思ってます。よいお年を。

